メディア政治

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明日から大連に旅行するにあたり、日露戦争に関する本を読んでいる。

読売新聞取材班がまとめた「検証 日露戦争」という本の中に「「メディア政治」の始まり」という項がある。こんな文章から始まる。

 

『米ポーツマスで行われた日露講和会議には日本や欧州などから100人を超える新聞や通信社の記者がつめかけ、熾烈な取材合戦が繰り広げられた。当時の新聞は各国の世論の風向きに大きな影響力を持ち始めていた。一ヶ月近くに及んだ交渉は、日露の代表団、そして仲介者となった米国にとって、いかに好意的な記事を書かせて国内外の世論を味方につけるか、をめぐるせめぎ合いでもあった。』

『大きな事件や事故が起きると、新たな進展があってもなくても、些細なことまで取り上げて集中的な報道を続ける。それが通信技術の発展もあり、世界中に伝えられる。現在のCNNテレビに代表される報道のスタイルだが、地元の歴史研究家で、ジャーナリストでもあるデニス・ロビンソン氏は「まさにCNN方式の報道がここで誕生したと思う。世界で最初の近代的なメディア・イベントの舞台になったとも言える」と話す。』

 

日露戦争は、「戦争の世紀」と呼ばれた20世紀最初の大規模な近代戦だった。

「総力戦」「科学技術の戦い」という意味で、その後起きる第一次世界大戦を先取りする戦争だった。

 

『カナダ・ブロック大学のデイビッド・シンメルペンニク准教授らは、のちの第一次世界大戦を先取りし、その原型になったという意味で、日露戦争を「第零次世界大戦」と呼ぶ。

二つの戦争の共通点として「何万もの兵員が有刺鉄線と塹壕と地雷をはさんでにらみ合う」という戦闘の特徴などとともに、「国内戦線」の存在をあげ、実際の戦場とは別に、国内政治あるいは世論が生み出すもう一つの「戦場」が、「戦闘と深く結びついた」ことに注目する。

ロシアで「血の日曜日事件」(1905年1月)が戦争継続の足かせとなり、日本ではポーツマス条約に不満を持つ民衆が「日比谷焼き討ち事件」(同年9月)を起こしたように、今や戦場だけでは決着がつかない「20世紀の戦争」が出現したのだ。』

 

ポーツマス会議での日露代表団の対応は対照的だったという。

ロシア代表のウィッテは報道陣の前に積極的に現れ、愛想を振りまいた。情報に飢えた記者たちにとっては「一種のスーパースター」になった。一方、日本側全権の小村寿太郎は寡黙で、報道陣との接触も避けた。

 

『外交評論家の岡崎久彦氏は著書「小村寿太郎とその時代」で、「個性や人間的な魅力で相手に接することを知らない、いわゆる「顔のない外交」は今に至る日本外交の欠点であり、特にアメリカを舞台にした外交では種々の場において不利に働いたことは、今から振り返ってみても真実であったろうと認めざるをえない」と指摘している。』

 

日露戦争では、アメリカ世論の80%は親日だっとと言われる。しかし、ポーツマス会議を伝えるメディアによって世論の風向きが変わったという。こうした変化に最も敏感だった一人が、ポーツマスでの講和の仲介役になった米国のセオドア・ルーズベルト大統領だった。

 

『ルーズベルトは翌1906年、ノーベル平和賞を受賞しているが、彼の役割を好意的に伝えた世界のメディアの報道ぶりも受賞の大きな要因になったのは間違いない。

「ルーズベルトにとって国際政治の檜舞台に出るチャンスでもあった。好印象を持ってもらうためにメディアには非常に気をつかった」

米国はすでに世論政治の国だった。特に当時の新聞の力は大きかった。「人々も新聞を通じてしか情報を得られなかった。政治家にとっては外交の道具でもあった」』

 

メディアを利用し世論を味方につけようとする「メディア政治」は、まさに20世紀の初め日露戦争の時に始まった。それから1世紀がたち、板門店で南北首脳が国際世論を意識した一大パフォーマンスを演じてみせた。

今はリアルタイムで映像が流れる。インターネットが世界中の人の反応を即座に拡散する。

そんなメディア環境を巧みに利用したムン大統領と金委員長は、これまでのところ狙い通りの結果を手にしたように見える。

 

そして、ポーツマス会議の仲介役を果たしたルーズベルト大統領は、ノーベル平和賞を受賞した初めてのアメリカ大統領となった。

その後、現役でノーベル平和賞を受賞したのは、国際連盟を提唱したウィルソン大統領と「核なき世界」を訴えたオバマ大統領、歴代3人だけだ。カーターさんも元大統領としての活動が評価されノーベル平和賞を受賞したが、大統領を辞めて20年もたってからのことだ。

ルーズベルト大統領は平和主義者とはとても言えない野心家だった。

その意味で、トランプ大統領もメディアや世論を味方につけることができれば、ノーベル平和賞受賞という誰も予想しなかった栄冠を手にすることになるかもしれない。

 

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