ちょっとした事

エッセイを書くためには、日常のちょっとした「あるある」ネタが必要である。

それは私にも日常的に起きているはずだが、多くはすぐに忘れてしまう。カナダの「エッセイ」を曲がりなりにもまとめる事ができたのは、現地で毎日スマホにメモを残していたからだ。「ちょっとした事」はその日のうちに書き残しておかないと、後から思い出すのは至難の業だ。

img_2503

ということで本日の「ちょっとした事」。

きょうスーツのズボンのポケットに2枚のハンカチが入っているのに会社で気づいた。「あれっ」と思って、なぜそんな事になったのか思い返してみた。

きのうはいたズボンから財布などを移し替える際、ハンカチが昨日のズボンに残されているのを見つけたのだが、きのうはそのハンカチを使わなかったので、きょうも使えると思い、スーツのズボンに入れたのを思い出した。その後、いつものようにハンカチと靴下が入っている引き出しを開け、いつものようにハンカチをズボンのポケットに仕舞い、靴下をはいて家を出たのだろう。その時にはすでにハンカチをポケットに入れたことはすっかり忘れていた。習慣と言うか惰性と言うか、そういういつものルーティンが2つのハンカチとなったわけだ。

img_2504

「ベスト・エッセイ2015」という本を読んでいるが、この中に、詩人の大江麻衣という人が書いた「トレブリンカの入れ歯」というエッセイが目についた。

トレブリンカとは、ナチスドイツがユダヤ人抹殺のために作った絶滅収容所の名前だという。『夜と霧』の中にも登場する収容所だが、絶滅収容所はナチスによって跡形もなく破壊され、その上に木を植えて森が作られたため、何も残っていない。ここで90万人が犠牲となったと推定されているが、資料は写真1枚すら残っていない。

そのため、トレブリンカにはガス室も絶滅収容所も存在しなかったと主張する人々もいるのだが、イギリスの考古学者が収容所の発掘を試みた。大江さんはこの発掘調査を記録した番組をテレビで見た。トレブリンカ収容所の跡地は現在記念公園になっているが、調査チームは上空から特殊なレーザーを当て、木が植えられる前の地表の状態を調べる。そして地表の状態が他と違う場所を割り出し、掘削していく。その結果、子供の歯や人骨の一部、コイン、髪飾り、ブローチなどと一緒に、入れ歯が出てきた。さらにダビデの星が描かれた白と赤の石のタイルも。ガス室の壁と床と見られている。

その中で、大江さんには入れ歯がとりわけ印象に残った。「乳歯は埋めても、入れ歯は埋めない。そんなものが埋まっているということがどういうことなのかを考える。誰かの入れ歯から、自分の歯のことも、トレブリンカのことも見えてくる」と書いている。

知らない史実を、エッセイの形で簡潔に書く。より興味がある人は、自分でさらに調べてもらえばいい。こういうエッセイのあり方は、大いに参考になる。

コメントを残す