<吉祥寺残日録>薬をもらいに行く #200316

毎日飲んでいる高血圧の薬が少なくなったので、かかりつけのクリニックに電話してみた。

「いつもの薬をもらいたいのだけど、行かなくても処方箋もらえるんでしたっけ?」

確か、安倍総理が以前会見で、いつもの薬をもらいに行って新型コロナに感染しないよう、医者に行かなくても処方箋がもらえるようになると話していたことを思い出したのだ。

しかし、クリニックに行かずに薬局で直接薬をもらえるような気の利いた方法はまだないらしい。

ただ、1ヶ月分の薬なら医師の診察を受けなくてもクリニックに来てもらえれば処方箋を出せると言う。

「できれば2−3ヵ月分まとめてもらいたい」と伝えると、先生と相談して電話をくれるということになった。

しばらくして電話がかかってきて、11時に来てくれれば待たずに処方箋をもらえると言う。このところクリニックは空いているのだそうだ。

指定された通り、11時にクリニックを訪れると、いつも10人以上待っている待合室に2人しか人がいない。

そして嘘のようにすぐに医師の診察を受けることができた。

私のかかりつけのお医者さんは普段マスクをつけずに診察しているのだが、流石に今日はマスクをしている。

簡単な診察を受けて、希望通り2ヶ月分の薬を出してもらえ、まずはメデタシメデタシなのだが、私にはちょっと引っかかるものがあった。

「ソサエティー5.0」と言う言葉をご存知だろうか?

日本政府が掲げる未来社会のコンセプトを表したもので、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、新たな未来社会」を意味する。

最近どんな分野のセミナーや展示会に足を運んでも、必ず「ソサエティー5.0」という言葉を耳にする。

各省の大臣や高級官僚の講演でも、企業の展示ブースでも、ITと日本のものづくりを融合した「ソサエティー5.0」に向けて官民挙げて努力しているとバラ色の未来が語られていた。

遠隔医療もその代表的なものであり、もう何年も前からそのコンセプト展示を見てきたのだが、今回の新型コロナ騒動で明らかになったのは、それが単なるコンセプトに過ぎず、日本政府や日本企業にはIT技術を実際の課題解決に利用する能力が全く備わっていないという現実だった。

発熱して検査を受けたいと思っても、コールセンターに電話しなければならなくて、その電話は一向につながらない。

一体、このどこが「ソサエティー5.0」なのか?

中国では、ITを駆使した監視社会がウィルス対策で効果を発揮した。遠隔医療や遠隔授業、無人ロボットを使った宅配など、現代的な取り組みが次々に登場している。

台湾では長髪のIT大臣の指揮のもと、マスクがどこの薬局で買えるのか、一目でわかるアプリを開発し市民にも好評だ。

アメリカでは、政府とグーグルがタッグを組み、感染者をスクリーニングするサイトを開発していると言う。

日本にも多くのIT企業があるのに、未だにコールセンター頼みとはどうなっているのだろう?

パソコンも使えないIT担当大臣を擁し、デジタル化が遅々として進まない日本政府の現状が図らずも白日の下に晒されているのだ。

政府にITのノウハウがなければ、なぜ早い段階で民間の力を活用しないのか?

日本のIT企業も自社のテレワークに力を入れるだけでなく、もっと国民全体に役に立つアイデアを打ち出して、政府に売り込まないのだろう?

コロナ騒動が収束した後、世界の風景は大きく変わっているかもしれない。

その時、日本が生き残っていけるのか、甚だ心配になってしまった。

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週が明けても、世界の混乱は一向に収まる気配はない。

アメリカFRBは、アジアの市場が開く前に1%の緊急利下げを行い、ゼロ金利政策に舵を切った。

それに呼応するように、各国の中央銀行が協調して緊急対策を打ち出し、日銀も金融政策決定会合を前倒しするという異例の対応で、ETFの購入枠を12兆円に倍増するなどの緊急対策を決めた。

各国の金融当局にできる手立てはほぼ出尽くした。

しかし、市場の混乱はまだ収まりそうにない。

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その背景には欧米でますます新型コロナの影響が強まっていることがある。

武漢並みの医療崩壊に直面しているイタリアに続き、フランスやスペインでも店舗の閉鎖が始まった。ドイツは事実上の国境封鎖に踏み切り、アメリカではヨーロッパ諸国から慌てて帰国した人たちが長蛇の列を作った。

欧米諸国はこれから本格的な巣篭もり態勢に入る。

そして発展途上国でもじわじわと感染者の報告が増えてきていて、外出禁止の措置が一気に世界中に広がるかもしれない。

日本では老人施設での感染が徐々に増えてきているのが気になる。

検査を積極的に行わず、感染者数の増加が他国に比べて鈍いわりに死者の数が多くなっている現状をどう見るのか?

重症者が急増する日に備えて、人工呼吸器を備えた病床の確保、軽症者を隔離するための宿泊施設の手当てなど今やらねばならない準備が一向に進んでいないように見えるのはなぜか?

日本中に広がった目に見えない感染者が、ある日、高齢者の死者数急増という形で突如表面化してくるのではないか?

そんな疑問が次々に浮かんでくる。

「ソサエティ5.0」という言葉のまやかし同様、「世界最高の医療水準」と信じている日本の医療が幻想でないことを祈るしかない。

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