<吉祥寺残日録>緊急事態解除後に感じる「潮時」 #200527

安倍総理による緊急事態宣言解除の発表から2日目の朝、久しぶりに会社に向かった。

井の頭線の終点、吉祥寺駅。

午前9時半の時差通勤なので、ホームに人影もまばらだ。

吉祥寺駅を出発した直後の快速電車は、相変わらずガラガラだった。

私のいつもの通勤時間よりも遅いとはいえ、まだ多くの人が在宅勤務を続けているようだ。

とはいえ、途中駅から乗ってくる人は一時よりも増えたようで、渋谷に着く頃にはご覧のように立っている人もかなりいた。

井の頭線の渋谷駅。

それなりに多くの人が電車から吐き出されてくるが、ほぼ全ての人がマスクをしている。

どうだろう?

前回都心に来た時と比べて、さほど人が増えた印象はない。

今日私が出社したのは、6月末で会社を辞めることを正式に伝えることが目的だった。

その話はスムーズに終わり、先週訃報が届いた会社の先輩の話になった。

70歳すぎだったこの先輩は、無給の顧問として私たちの仕事を手伝ってくれていた。長年培った人脈を生かして新しい仕事を獲得するバイタリティーは、最後まで衰えることがなかった。

62歳で会社を去ろうとしている私とは違い、この先輩は65歳を過ぎた後も無給で会社の顧問に留まり、精力的に営業活動を行なってくれた。

本当に仕事が好きな人だったのだ。

会社を出て、再び渋谷の街に戻る。スクランブル交差点の人出は思ったほど増えてはいなかった。

亡くなった先輩も井の頭線沿線に住んでいたため、取引先と飲んだ後などよく車で先輩を家まで送ったことを思い出す。

先輩は、がんを患っていた。

抗がん剤の治療で頭髪が抜けてしまい、晩年は帽子をかぶって会社にやってきた。

ところが去年、ラグビーワールドカップが近づいた頃、「治療法を変えたら、髪の毛が増えてきたんだよ」と嬉しそうに話してくれたことがある。学生時代はラガーマン、東京で開催されるラグビーのワールドカップを何より楽しみにしていた。

その先輩について、今日会社の同僚から聞かされたのは、私が全く知らない話だった。

「ガンの治療法を変えた」というのは実は嘘で、寿命が縮まることを承知で抗がん剤の投与をやめる決断をしたというのだ。

抗がん剤を辞めることで一時的に元気を取り戻し、最後のワールドカップを思い切り楽しむ、それが先輩が望み、自ら選んだ生き方だった。

そういえば、「私はもう長くないから」と私にもよく話していた。

「そんなにコロッといくキャラじゃないでしょう」と私はその都度答えたものだ。

でも、先輩は自分の寿命を知っていた。

自分の人生のフィナーレをどのように演出するか、先輩は最後までプロデューサーとしてとことんこだわり抜いて死んだのだ。

死の床についてからも、最期の瞬間に流してほしい音楽を自ら選曲し、誰にどのタイミングで自分の死を伝えるかのスケジュール表まで作って娘に託したという。

私とは全然違う、細部にこだわるプロデューサーだった。

会社帰りに私が渋谷に寄ったのは、やりたいことがあったからである。

訪れたのは、地下2階にある東京メトロ副都心線の事務所。

ここで、通勤定期を解約する。

6月末で辞めるなら定期を中途解約した方が得ではないかと思って、たまたま定期券の有効期限を確認すると9月27日までとなっていた。

これも何かの偶然。

今日5月27日に解約すれば、4ヶ月分が払い戻される。

東京メトロの窓口で定期の解約をしてもらおうと思ったら、「外にある申請書に記入してください」と言われた。

日本は本当に書類が好きだ。

だからデジタル化が進まない。

そんなことを感じながら申請書に記入して再び窓口に行くと、4ヶ月分4万8000円が払い戻されることになった。

私のPASMOから、定期券の表示が消された。

こうして一つ一つ、38年間勤めた会社との関係が薄れていく。

6月には在宅勤務が解除されるかもしれないが、どうせ毎日通勤することにはならないだろう。

吉祥寺に戻った後、一旦帰宅してから、自転車に乗って緊急事態宣言が解除された街の様子を見て回った。

新型コロナウィルスという世界的な出来事を、私は吉祥寺で定点観測しようと思っているからだ。

大型店はまだ閉まっているところが多い。

東急百貨店は、地下の食料品売り場以外まだシャッターが下りたままだ。

貼り紙を見ると、6月1日に営業を再開し、営業時間は 10:30-18:30 となるらしい。

「コピス吉祥寺」もまだ営業していない。

再開の予定もまだ明示されていないし、サイトをチェックしても具体的なことは何も書かれていない。

パルコは、6月1日から営業を再開すると貼り紙に書かれていた。

営業時間は、11:00-20:00 を予定しているようだ。

マルイも6月1日からの営業再開を決めている。

営業時間は 10:30-20:00 となっていた。

駅ビルの「アトレ吉祥寺」はまだ、日常の食料品を扱うロンロン市場など一部での営業のみ。

店頭に表示はなかったが、サイトを確認すると全館臨時休業は5月31日までで、やはり6月1日から営業時間を短縮して再開すると書いてあった。

一方で、先日までシャッターを下ろしていた「吉祥寺ロフト」は営業を再開していた。

今週25日から営業を始めたようで、当分の間は、営業時間は 10:30-19:00 になるという。

緊急事態宣言中もずっと営業していた家電量販店「LABI吉祥寺」や「ヨドバシカメラ」はもちろん今日も営業中。

いち早く営業を始めたユニクロやブックオフなども含めて、6月1日には大型店舗がすべて営業を再開する見通しだ。

吉祥寺の魅力である回遊性が復活する日は近い。

心配なのは、果たしてどの程度の人が吉祥寺にやってくるかどうか?

そして、多くの人が街に戻ってきた時に再び感染が広がらないかどうか?

東京都の要請緩和と人出の回復を見込んで、休業していた飲食店はいち早く営業を始めている。

4月からずっと休業していた吉祥寺の名店「葡萄屋」も、今週から営業を再開していた。

吉祥寺を代表するお蕎麦屋さん「ほさか」も26日からお店を開けたほか、人気店が次々に営業を再開していた。

こうした緊急事態宣言解除後の飲食店の様子については、また別の記事でまとめて報告したいと思っている。

ただ、少しずつ蘇りつつある吉祥寺の街の中で、静かに消えてゆくお店もある。

吉祥寺通り沿いにあったジブリグッズのお店「Dhanu」。

ジブリ美術館に徒歩で向かう外国人観光客が必ず足を止める人気のお店だった。

しかし、24日の日曜日をもって閉店。

きょう店の前を通りがかると、ショーウィンドウに飾られていた人形たちはすべて撤去され、店名が書かれた看板も外され、店内の片付けが行われていた。

私は店に入り、片付けをしていた女性に話を聞いてみた。

「お店は何年ぐらいやられたんですか?」

この場所に店を開いて6年ほどだという。

外国人観光客に人気のお店だったが、コロナの影響でまったく外国人が来なくなり、オーナーが店を畳むことを決断したそうだ。

お店に残っていたグッズは、オーナーが経営している長野県蓼科にある別の店に移されるそうだ。

「この場所でジブリのグッズを売るって頭がいい人がいるなあと感心していたんですよ」と私が話すと、片付けをしていた女性は残念そうに「まあ、これも潮時でしょう」と言った。

私が会社を辞めることを決めた時に感じた「潮時」という言葉が、お店の女性の口から出た。

私は、その偶然にちょっと驚いた。

新型コロナウィルスに「潮時」と感じたのは私一人ではない。

多くの人が「潮時」を感じ、それぞれの人生を変えようとしているのだ、と私は思った。

緊急事態宣言が解除された東京、そして吉祥寺。

そこでは、多くの人たちが思い悩み、様々な人生模様が交差している。

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