<吉祥寺残日録>照ノ富士復活V!大相撲“変則”七月場所は千秋楽までドラマチック #200802

いやあ、最高のドラマを見せてもらった。

優勝は、幕尻の照ノ富士。

大怪我で序二段まで転落したどん底から、今場所幕内に戻ってきたばかりでの完全復活!!

あまりによくできたドラマに、本当に鳥肌が立った。

コロナ禍で行われた今場所は、何から何まで異例づくめだった。

3月の春場所は無観客、5月の夏場所は休止、そして7月は本来の名古屋ではなく両国国技館で開かれた「七月場所」となった。

ソーシャルディスタンスを保つために、観客数の上限を2500人に制限。通常4人で座る升席に観客は1人、土俵に近い砂被り席には観客を入れないなどの感染対策をとったうえでの開催となった。

贔屓の力士が登場しても声かけは禁止、人気の炎鵬の取組でも会場はシーンとしていた。その代わりに、観客に許されたのは拍手。いい相撲の後には場内に拍手が響いた。

千秋楽の表彰式では、君が代斉唱はマスクを着用したまま心の中で斉唱するよう場内アナウンスが流れるほどの徹底ぶりだった。

それでも、無観客だった春場所に比べると違和感は少なく、コロナが収束するまではこれがスタンダードになると見られる。

会社を辞めて心置きなくなく大相撲が見られるようになった今場所。

私は連日、午後4時ごろから大相撲中継を見るのか日課となった。

千秋楽の今日、いつものように夕方テレビをつけると、ちょうど十両の優勝決定戦が行われていた。

十両は大混戦で、千秋楽を終わって10勝5敗でなんと6人の力士が同星で並んだ。しかも6人のうちの3人が同じ立浪部屋の力士だったのだ。

私は、6人の優勝決定戦というのは初めて見た。

まず2人ずつ3番の取組を行って、負けた方はその段階で脱落する。

同じ立浪部屋の力士が初戦で当たらないように組み合わせが決まったのだが、なんとなんと全て立浪部屋の力士が勝ったのだ。

明生、天空海、そして朝青龍の甥である豊昇龍の3人だ。

幕内上位で活躍していた明生と期待の新鋭・豊昇龍の取組は名勝負だった。

そして、最終的に勝ったのは実力者の明生。来場所は幕内に帰ってくる。

それ以外にも、注目の若手が目についた。

序の口優勝の北青鵬。

もともとモンゴル人だが5歳の時に家族と共に来日し、北海道出身として紹介されている。

身長2メートル、体重158キロの18歳。

その相撲はスケールが大きく、将来が楽しみな逸材である。

そして、幕内。

今場所の展開は予測不能だった。

今場所最大の注目は新大関・朝乃山だった。

このところ、ぐんぐんと力をつけ人気も急上昇だが、どうも私は朝乃山の相撲が好きではない。

優等生っぽくて、面白くないのだ。

それでも予想通り、朝乃山と横綱・白鵬が圧倒的な強さを見せ全勝で中日を折り返し、その盤石の相撲内容から2人の優勝争いと思われた。

ところが、11日目、白鵬が小結・大栄翔に敗れたところから場所の様子が一変する。

12日目には、白鵬が関脇・御嶽海に敗れてまさかの連敗を喫すると、翌日からは休場してしまう。

横綱・鶴竜と大関・貴景勝もすでに休場していたため、残る大関は朝乃山一人。

朝乃山がまた白鵬との直接対決もないままに優勝してしまうのかと、個人的にはちょっと白けた気分になりかけた。

ところが・・・

終盤戦を俄然面白くしてくれたのが東前頭17枚目、幕尻の照ノ富士だった。

今場所幕内に復帰したばかりの元大関は、高安に負けただけで12日目を終わって11勝1敗。

13日目には、朝乃山との一敗対決が組まれた。

結果は・・・

序二段から這い上がってきた元大関が、人気の新大関を圧倒した。

テレビを見ながら思わず声が出た。

一気に大関に駆け上がった当時の強烈に強い照ノ富士が帰ってきたのだ。

今場所は照ノ富士の優勝を見たい、その時私は心からそう感じた。

ただ、今場所は2人の関脇、正代と御嶽海がとても元気で、優勝の行方は両関脇が握っていた。

14日目、照ノ富士は正代に敗れる。

この段階で、2敗に朝乃山と照ノ富士が並び、3敗で正代と御嶽海が追う展開。優勝争いは完全に4人に絞られた。

14日目の朝乃山の対戦相手は前頭7枚目の照強。

上位陣の休場が相次いだためで、当然朝乃山の楽勝と思われた。

ところがなんと、照強は足取りで朝乃山を土俵に転がしたのだ。

結びの一番で鮮やかに決まった足取り。

こんな鮮やかな足取りは滅多に見られない。

気の強い照強が、ここ一番で同じ伊勢ケ浜部屋の照ノ富士を援護射撃した格好だ。

そしてこの一番が、結果的に今場所の行方を決めたのである。

千秋楽。

2敗で先頭を走る照ノ富士は、御嶽海との対戦に勝利すれば優勝。

負ければ、御嶽海、朝乃山と正代の勝者と3人による巴戦の優勝決定戦になるという予想のできない展開となった。

私は当然、照ノ富士を応援する。

そして、期待通り、照ノ富士は圧倒的な強さで実力者の御嶽海を寄り切った。

やっぱり、照ノ富士の強さは半端ない。

この瞬間、御嶽海だけでなく、土俵の下で見つめていた朝乃山と正代の優勝の可能性も消えた。

照ノ富士の奇跡の復活優勝が決まったのだ。

大関から陥落した力士が復活優勝を飾るのは、魁傑以来44年ぶり2人目だという。

序二段まで堕ちた力士が幕内優勝を飾ったのは、もちろん照ノ富士が初めての快挙である。

優勝インタビューで照ノ富士は、「いろんなことがあって最後にこうやって笑える日がくると信じてやってきた。一生懸命やったらいいことがあると。やってきたことを信じてやるだけだと思っていた」と話した。

30場所ぶりの優勝は、歴代2番目の長さ。

もし照ノ富士が大怪我さえしていなければ、間違いなく横綱になって、白鵬を苦しめる存在になっただろう。

それほどの最強の力士が、地獄から這い上がってきた。

照ノ富士はこうも語った。

「イケイケのときに優勝してる。今は慎重に、ひとつのことに集中してやってきた。それが違う。こうやって笑える日がきてうれしい」

この優勝に力づけられる人も多いに違いない。

ああ、ますます大相撲が好きになった。

ジジイになった証拠ではあるが、ある意味、人生を味わうのが上手になった証とも言えるのではないか?

もう今から、来場所が楽しみで仕方がない。

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