<吉祥寺残日録>クラスター対策班 #200322

昨日このブログでこんなことを書いた。

メディアも、東京オリンピックを心配する前に、日本の医療現場の状況や非常時の準備、唯一の希望であるワクチンの開発について、もっと現場を取材すべき時である。

政府の広報機関に甘んじるのではなく、今こそもっともっと専門家の本音を引き出し、多くの日本人にウィルスの本性を伝え、正しい危機意識を訴える報道が求められている。

今日放送されたNHKスペシャル「“パンデミック”との闘い」はまさにそうした番組だった。

最近のNHKニュースは政権におもねる見るに耐えない報道番組に成り下がっているが、NHKの中にはまだテレビマンの良心と使命で行動するスタッフがいることにホッとしながら番組を見た。

番組の冒頭、厚労省の中に作られたクラスター対策班の内部に初めてカメラが入った。

30人ほどの専門家チームを率いるのは東北大学大学院の押谷教授。テレビカメラに映し出された押谷教授の表情には疲労の色と共に、危機的な状況に対する悲壮感があふれていた。

先日の専門家会議の発表とはまったく違う、ギリギリの状況に日本があることを押谷さんは正直に語っていた。どうして専門家会議は公式見解として、この危機感を国民にもっとストレートに伝えないのか?

同じくクラスター対策班の北海道大学西浦教授は、日本人の間になんとなく安心感が広がり、感染拡大の危険性があるイベントがまだたくさん行われている状況に危機感を訴えた。

実際、イベントは主催者の判断でという発表を受けて、としまえんが開園、宝塚劇場も再開し、今日は知事の自粛要請を拒否する形でK1の大規模イベントも行われた。

私が懸念した通り、専門家も日本の緩みを警戒していることがわかった。

押谷教授はこんな気になる言葉を口にした。

「日本はここまで何とか持ちこたえているが、第2波は乗り越えられないかもしれない」

武漢発の感染拡大が第一波、そして欧米などでの感染拡大が第二波である。

ここに来て、感染経路がわからない感染者が増えてきている。そうした感染者の周囲には、まだ見つかっていないクラスターがあると考えるべきで、それを放置しておくと間違いなくオーバーシュートが起きると心配しているのだ。

欧米に比べて日本でオーバーシュートは起きていないが、押谷教授は「これは幸運によるもので、今後もこういう幸運が続くことはない」と断言した。

日本政府の方針、専門家会議の公式見解とは違う日本での危うい現状を訴えるため、押谷教授はこの番組の取材を受けたのではないかと感じる緊張感が画面からひしひしと伝わってきた。

私を含め多くの人が、日本でのPCR検査の少なさを懸念しているが、この点について押谷教授はPCR検査を抑えていることがオーバーシュートを抑え込んでいる理由だとの見解を述べた。

クラスターを発見し監視下に置ければ大規模な感染は起きないというのが基本的な考え方のようだ。日本でPCR検査が行われないのは、こうした専門家会議の考え方も影響しているのだろう。

番組では新型コロナウィルスの感染メカニズムについても最新の研究成果が紹介された。これまで言われてきた飛沫感染や接触感染に加え、「マイクロ飛沫感染」という100分の1ミリという小さな粒子が空気中に漂うことで感染が広がっているのではないかという見方が専門家の間で強まっているという。

近距離で大声で会話したりするとマイクロ飛沫が空気中に長時間漂い、感染を広めるというのだ。それを防ぐために有効なのが換気である。

また武漢の現状も報告された。習近平さんが武漢を訪問した後、ここ数日新たな感染者が出ていないと伝えられる武漢だが、現地の医師たちは「まだ予断許さない状況続く」「収束するようには思えない」と警戒を緩めていない。

世界の70−80%の人が感染するまでウィルスの脅威は収まることはなく、終息までには2−3年かかるだろうと専門家たちは考えている。

私が昨日のブログで書いた「集団免疫」の考え方である。

このウィルスを克服するには、3つの方法しかない。①ワクチン、②集団免疫、③行動変容の3つだ。

今すぐにできることは、行動変容、すなわち人々が普段の行動を変えて、ウィルスに感染しないよう最大限注意することだ。

世界各国が「中国方式」の厳しい行動制限に踏み切る中で、日本は一定の経済活動を継続しながら感染爆発を防いでいく道を模索している。この「日本方式」は今、世界から注目されていて、希望の光も見えてきていると押谷教授は語った。

番組は最後に、台湾の事例を紹介した。

台湾では、初期の段階から「中央感染症指揮センター」の陳時中指揮官を新型コロナの責任者として、首相級の権限を与えて対策の全体を統括させた。陳指揮官は情報公開を何より重視し、自らが毎日会見を開き、すべての質問に答えて国民の不安の払拭に努めている。

マスクは政府が全て管理し、健康保険カードで配布、国民の利便性を考えてアプリを開発し、学校の閉鎖や休校の基準も明確に示した。政府は細やかなプランを立て、それを国民に説明することでスムーズな行動変容を促し、ここまで感染の拡大を防いできた。

指揮者がはっきりしない日本政府の対応とは大きく異なっている。

この三連休、日本では欧米に比べて新型コロナに対する警戒心がかなり緩んできたことを感じる。押谷教授の悲壮な認識との間で、信じられないほどのズレが生じているように感じる。

その責任は、政府とメディアにあるのではないか?

NHKスペシャルを見終わった後、フジテレビの「Mr.サンデー」を見たが、生出演した西村大臣に対し、宮根さんやスタジオゲストが発する質問が経済対策や五輪のことに偏り、肝心のウィルス対策や行動制限を忘れてしまっているように感じた。

今はまだ、経済や五輪の話をする段階ではなく、欧米のようなオーバーシュートをどのように回避するかこそが重要な段階なのだということを日本人全体で認識しなければならない。

Mr.サンデーのうるさいだけの番組を見ながら、テレビマンのレベルの劣化をまた感じてしまった。

日本は本当に大丈夫だろうか?

テレビはスタジオで虚しい議論をするだけでなく、現場に足を運び、先手先手で取材した課題を見せてもらいたい。

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