神保町で妻の携帯が鳴った。「今日は家にいるか?」という三男からの電話だった。
「今、用事で神保町に来ている」と伝えると、「もらった柿を渡したいので神保町に行く」ということになったらしい。
喫茶店で待ち合わせることにして、ネットで神保町の喫茶店を調べる。
歴史ある喫茶店がたくさんある神保町でもひときわ異彩を放つ老舗「さぼうる」に行ってみることにした。
1955年創業、私より古い今年63年目を迎える神保町のレジェンド的喫茶店「珈琲と洋酒の店 さぼうる」は、山小屋風のちょっと怪しげな外観をしていた。
お隣の「さぼうる2」には行列ができていたのに、なぜか1号店には行列がなくスムーズに入ることができた。
入り口には、今時珍しい赤い公衆電話。
これって、使えるのだろうか?
薄暗い店内に入ると、すぐにカウンターがあり、客席は半地下と中2階の二段構造になっていた。
本当に昔の喫茶店は、不思議なお店が多い。
私たちは、半地下の席に案内される。
天井高は2メートルあるかないかというやや圧迫感のある空間だ。
暗い店内に、古びた電気スタンド。
おそらく創業時から、内装はほとんど変わっていないのではないだろうか。
レンガを積み上げて作られた壁は、びっしりと誰かのサインやメッセージで埋め尽くされている。
神保町といえば、明治大学や専修大学がある学生街。遠い昔の若者たちの熱気が、レンガの一つ一つに込められているようだ。
そんなレトロな喫茶店のメニューを開くと、2つどうしても飲みたいものがあった。
妻に頼んで、2つとも注文した。
一つは、「いちごジュース」(550円)。
この店の看板メニューである「フレッシュジュース」には、いちごのほか、バナナ、パイン、レモンの4種類があるが、中でも「いちごジュース」は人気らしく写真入りで紹介されていた。
氷と一緒にジューサーにかけられたであろうこのいちごジュースは、濃厚で爽やかで、本当に美味しい。
観察していると、やはり「いちごジュース」を頼んでいるお客さんが多いようだ。
そしてもう一つ、私が飲みたかったのが懐かしの「ミルクセーキ」(580円)だ。
子供の頃、デパートの食堂に行くと必ずミルクセーキを注文した。この世で一番美味しいと信じていた宝物のような飲み物だった。
近頃では、滅多にお目にかかれない「ミルクセーキ」だが、久しぶりに飲んだ感想は、「甘い!」の一言だった。
こんなに甘かっただろうか?
この店の「ミルクセーキ」はアイスクリームも乗って濃厚なのかもしれない。
でもやっぱり、懐かしい味だ。
30分ほど待って、ようやく三男は彼女を伴って「さぼうる」に現れた。
「いちごジュースもミルクセーキも、美味しいよ」と勧めてみたが、2人はコーヒーフロートやホットココアを注文した。彼らにとって、それは思い出の味ではないのだ。
神保町の古い古い喫茶店。
遠い日の青春の味が、わずかながら蘇ってくるちょっと素敵な待ち時間だった。
食べログ評価3.58、私の評価は3.80。