<吉祥寺残日録>岡山帰省10日目、大谷のホームランダービー観戦を中断し伯母をワクチン接種に連れていく #210713

今日、中国地方の梅雨明けが発表された。

今回岡山に帰省して10日、ずっと雨の日が続いたきたがいよいよ本格的な夏がやって来る。

今日も朝からいろいろ用事がある。

午前9時には、伯母の要介護認定の見直しのため女性調査員が面接にやってきた。

現在「要支援1」の認定だが、「重度の認知症」という検査結果から見て明らかに軽すぎるというのは医師や介護担当者の見解であり、再調査によって「要介護1」への認定替えを希望している。

ただ私は、その調査員の対応を妻に任せ、別室でテレビを見ていた。

日本人選手として初めてメジャーリーグのホームランダービーに参加する大谷翔平を見逃すことはできないからだ。

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今年のメジャーの話題を独占した大谷翔平は、ホームランダービーでも第1シード。

ここまで33本のホームランを放ちホームランレースの先頭を独走する大谷だが、彼を追う有力選手たちが次々に参加を辞退したため、大谷はダントツの優勝候補とみなされていた。

私もワクワクしながらNHKの生中継を見守った。

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ホームランダービーにはメジャーリーグを代表する8人のスラッガーが参加し、トーナメント方式で優勝賞金1億1000万円を争う。

第1シードの大谷は、8人の最後に登場した。

初戦の相手は、今年11本のホームランを放っているナショナルズのソトと対戦した。

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先攻のソトは4分間で22本をスタンドイン、これなら大谷の勝利間違いなしと思われた。

ところが、最後に登場した大谷は初のホームランダービーに力みすぎたのか、いつものようなスムーズなスイングが見られず、なかなかスタンドに届かない。

それでもタイムアウト後にペースを取り戻し、なんとかソトの22本に追いついたところでタイムアップ、勝負の行方は延長戦に持ち込まれた。

普段の練習でも経験しない4分間連続のフルスイングは大谷にとっても苦しかったらしい。

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1分間でのホームラン数を競う延長戦。

先攻のソトが放った6本に大谷は残り20秒残して追いついた。

これで大谷の勝ちかと思われたが、ここから大谷は凡打を続け、結局延長戦も引き分けで再延長戦にもつれ込む大混戦となった。

この時点で、時間はすでに10時40分。

ホームランダービーというのは思いのほか時間がかかるものである。

これ以上見ていると、伯母のワクチン接種の予約時間に間に合わなくなってしまう。

泣く泣くテレビを消して、嫌がる伯母を車に乗せて、近くのかかりつけ医に向かった。

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医者に着いて待合室のロビーに置かれたテレビを見ると、大谷の初戦敗退が決まっていた。

再延長戦は3本勝負で、先攻のソトは3本ともスタンドイン、後攻の大谷が打ち損じた段階で決着がついた。

日本中が期待した大谷のホームランダービー優勝は夢と消えたが、どうも大谷はこの結果を狙っていたようにも思える。

同点延長の末、優勝候補が初戦敗退。

これは決して見え方として悪くはない。

むしろ優勝するよりもチャーミングで好感度を上げるかもしれない。

大谷にとっては、明日行われるオールスター戦で史上初の投打の二刀流による出場が決まっているからだ。

1番投手で先発出場することがすでに発表されていて、ベーブ・ルースもなしえなかったオースルターゲームでの二刀流こそが彼の伝説となるのである。

明日も忘れずテレビ中継を見なければならない。

さて、伯母のワクチン接種に話を戻す。

「ワクチンやこせん」と言って絶対拒否を貫いていた伯母だが、このところ少し聞き分けが良くなって、今日も「おばちゃん、ワクチン行くよ。早く車に乗って」と促すと、「わたしゃ、行かん」と言いながらも靴を履いて外に出てきた。

この10日間、私と妻で伯母に話しかけて信頼を得てきた効果が少しずつ現れてきているのだろう。

かかりつけ医に到着した後も、おとなしく順番を待ち、名前が呼ばれると一人で診察室に入って行った。

「付き添いの方はこちらへ」と看護師さんに呼ばれて別室に入ると、ワクチン接種後の注意事項の説明があり、そのまま伯母が接種を受ける様子を見守った。

伯母はここでも素直に看護師さんの言うことに従い、接種はあっけないほどスムーズに終わった。

ワクチン摂取から戻り昼食を済ませた頃、今度は近くの農協職員がバイクに乗ってやってきた。

伯母は全財産をJAバンクに預けているのだが、そのうち定期口座が満期になったのだという。

農協としては定期預金の預け替えをして欲しいということだったが、伯母の状況を考えると、さして利子もつかない定期を再設定する必要はないし、むしろ全部を一つの普通口座にまとめた方が管理しやすいと判断した。

伯母がどこまで理解したかは不明だが、伯母の了解を取り付けた上で定期を普通口座に全額振り替える手続きを行なった。

農業を辞め今では国民年金しか収入がない伯母だが、ほとんどお金を使わない超節約生活を長年続けた結果、それなりの残高が積み上がっている。

伯母の通帳には、彼女の慎ましい人生が凝縮されているのだ。

「せっかく貯めたんだから、家をきれいにするなり、何か欲しいものを買うなりしたら」といつも伯母には話すのだが、この人は人生において無駄遣いというものをしたことがないので、もはや欲しいものなどないと言う。

今後、入院や施設でどのくらいお金がかかるか分からないが、せいぜい最後ぐらい人並み以上の施設を選んであげよう、新しくなった通帳を眺めながらそんなことを思った。

夕方激しい雷雨が上がり、雨上がりの道を妻と散歩した。

普段歩かないような集落の外れの小道を進むと、大きな木のトンネルがあった。

おそらくエノキの木だと思う。

「なんだか、いいところだなあ」

夕暮れの静かな田園風景の中を歩いていると、コロナのことなどすっかり忘れてしまいそうになる。

伯母はこの景色の中で60年以上働いてきたのだ。

東京の大都会で生きてきた私とは全く違った人生だけれど、過ぎ去ってみれば大した違いはない。

どう生きたか、悔いはないか、自分自身に胸を張れる人生だったか?

夫に早くに先立たれ、子供にも恵まれなかった伯母にとっては思い通りではない人生だったかもしれないけれど、自分で精一杯切り開いたその生き様は本当に格好いいと思う。

伯母が亡くなった後、私はこの田舎の家と土地を相続する。

伯母が一人で守り通したこの場所を何かの役に立てたい。

そんなことを考えながら、伯母が待つ家へと帰った。

養子縁組

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