きのう初めて三男の“彼女”に会った。スリムで背の高いモデルのようなお嬢さんだった。
一体、息子のどこが良かったんだろうか?
二人は大学の同じゼミに在籍している。この春、二人とも就職する。
二人で卒業旅行に行き、引っ越しに合わせて一緒に住むことを画策していた。もちろん息子がそそのかしていたのだ。当然のごとく、彼女のご両親は心配し、反対した。
ご両親が東京に出てこられるタイミングで、息子はご両親と会ったらしい。一緒に住むことは諦めるが、旅行には一緒に行きたいと言ったようだ。ご両親はその場で結論を出さず、持ち帰られた。
きのう二人から話を聞くと、旅行については認めてもらったと言う。二人は3週間ほどかけてイタリアを回る計画をしている。ご両親からは、期間が長過ぎるという話があったようだが、最終的には娘に任せるということで、しぶしぶ了解せざるをえなかったというのが真相のようだ。
一人娘が知らない男と旅行に行くと言い出した時、心配しない親はいない。ご両親の気持ちはよく分かるのだ。
しかし、私には息子のことをとやかく言えないような過去がある。
私の卒業旅行はアフリカだった。当時は卒業旅行などという習慣もなかったのだが、就職すると長期の旅行は不可能だと思っていたので、できるだけ遠くにできるだけ長く行こうと計画した。当初はひとりで行こうと思っていたのだが、今の妻を誘った。
当時、私と妻はつきあっていなかった。正確に言うと、別れた昔の彼女に唐突に連絡をとり、旅に誘ったのだ。なぜそんなことをしたのか、妻には失礼ながら今では覚えていない。
ここで驚くべきは、妻は勤めていた会社を辞めて、私についてきたことだ。アフリカが好きなタイプの女性ではない。今にして思えば、とんでもない決断を妻はしたものだ。それを聞いた妻の両親もさぞびっくりしただろう。
その時、私は結婚などというものにまったく興味がなかった。だから、将来結婚しようなどというちゃんとした気持ちもなく妻を誘ったのだ。三男と比べて、私の方がはるかに無責任だった。
先日、岡山に帰省した際、妻の実家を訪ねた。三男の旅行計画の話になり、妻の母親がこんなことを言った。
「うちのお父さんほど、寛容な父親はなかなかおらんと思うよ」
妻が会社を辞め、私とアフリカに行くという話を聞いた際、妻の家では大騒ぎだったんだと思う。きっとお母さんは「ありえない」と思ったのだろう。それでも、お父さんが娘に任せると判断して、何も言わなかったため、私たちの初めての二人旅は成立した。
その頃の私は、そんな大人たちの気持ちは全然気にもしていなかった。自分のやりたいように周囲を振り回していたのだ。今から思えば、とんでもない男だった。でも、その旅はとても楽しく、結果的に私たちは結婚した。
「若気の至り」というのは便利な言葉だ。すべて「若気の至り」と言えば、まさにその通りだ。
無謀で無責任で怖いもの知らず。息子の「若気の至り」が幸せな将来につながることを願いたい。