思い出を整理する

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三連休、岡山に行ってきた。

父親の生家に住む伯母から、屋根裏にある荷物の整理を依頼されたからだ。

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父親の生家は、築100年を超す農家。台所の上に屋根裏の物置き部屋があり、父親が大量の荷物をそこに運び込んだまま死んでしまった。

米寿を迎えた伯母は、もともと質素に暮らす人だったが、ここに来ていよいよ身の回りの整理を本格化させたようだ。

そこで屋根裏に眠っていた荷物が突然気になりだしたのだ。

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家をたずねると、玄関の土間にたくさんの段ボール箱が積み上げられていた。

すべて伯母が一人で屋根裏部屋から運んだのだという。何と恐るべき86歳。あの細い体のどこにそんな力が残っているのか。

段ボールの中身は、私たち兄弟の子供の頃のテストや教科書、死んだ父親の仕事関係の書類など、紙類が中心だ。どの段ボール箱もずっしりと重い。

荷物の中からは、いろんなものが出てきた。

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私と弟が産湯をつかった木のたらい。

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幼稚園で描いた絵。

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小学校時代、私が使っていたランドセル。

父親の世代は、何でも取っておく世代だったのだろう。取ってあるからといって、時々出して眺めるわけでもない。ただただ、捨てずに取っておくのだ。

小学校5年生の時、先生に命じられて書いたと思われる証文のようなものも出てきた。

「 ぼくは、自分で勉強ができませんので、とうぶんのあいだ、きびしくかんとくをお願いします。」

母親宛に鉛筆で書いた証文には、私の署名とともに拇印を押している。

そしてその脇には、「きびしくかんとくいたします。」という一文と母親の署名捺印、さらに担任の先生の印鑑も押してある。

私がよほど勉強しなかったので、先生が懲らしめるためにこれを書かせたのだろう。

私にはまったく覚えがなかったが、それを見た母もすっかり忘れていたようで、その証文を見て爆笑していた。それを伯母に見せると、普段あまりおしゃべりではない伯母まで大笑いで、ちょっとしたお宝を発見した気分だった。

そして私にとってのお宝は、父親が残していた2つのものだった。

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ひとつは、カレンダーの裏側にびっしりと書かれた奇妙な表。几帳面な文字と数字が書き込まれている。

どうやら家計簿のようだ。

この年の12月、父の給与は本俸1万円、扶養手当が600円、勤務地手当2120円、超過勤務手当551円、宿日直手当1080円、そしてボーナスが2万2605円だったようだ。

父親は農林省のノンキャリア官僚として、統計の仕事をしていた。この家計簿の書き方も、その仕事で身につけた統計の書き方なのだろう。

その収入で、肉や魚、チクワや漬物、小麦粉などを買っている。肉30円、魚15円、おそらく安月給をやりくりするため、安いものを少量買っていたのだろう。

その表には、公務員として真面目に勤め上げ、60歳できっぱり役所を辞めた父親の人となりと仕事ぶりがあふれ出していた。破天荒なところもなく、子供からすればあまり魅力的ではなかった父親だが、こうして細かな数字を大切にしながら公務員としての職責をまっとうしたのだと思うと、今更ながらに感謝せずにはいられない気持ちになってくる。

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そしてもう一つが、この木箱。中には、古いミノルタのカメラとともにたくさんの古い絵はがきが入っていた。

若い頃、写真に凝っていたという父は、絵はがきのコレクションが趣味だったようだ。

そんな話は一度も聞いたこともなく、父が集めた絵はがきを見せられたこともなかった。

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その多くは、国内の観光地の絵はがきだった。

父がこれらの観光地を実際に訪ねたのかどうかはわからない。

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中には、明らかに満州で描かれたと思われる絵はがきもある。日本軍兵士も描かれている。

これら満州の絵はがきがいくつかの茶封筒に入っていた。戦地に赴いた近所の人や兄がまだ小学生だった父宛に郵送してくれたもののようだった。

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茶封筒には「軍事郵便」「検閲済」の印が押されていた。

私が推理するに、昭和3年生まれの父は小学生の頃から絵はがき集めの趣味があり、それを知っていた近所の人が珍しい絵はがきを送ってくれたのではないか。

私の父親は、母と知り合った頃も地理や歴史が好きだったという。知らない町に行くと、決まって宿の周囲を散歩した。方向感覚が鋭く、道に迷うことはなかった。

こうした父親の性質は、確実に私に遺伝しているのだと、絵はがきを見ながら改めて実感した。

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こんな写真の絵はがきもあった。

父が生まれた昭和3年に発行された昭和天皇の即位を記念する記念写真のようだ。

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封筒の中には、新天皇皇后の写真などが入っていて、裏にはこんな文字が・・・。

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『御取扱不敬に渉らざる様御注意』。

乱雑に扱うと不敬罪に問われる時代だったのだろう。

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公務員としてコツコツと働いた父とテレビマンとして世界を飛び回った私。

親子とは言え、随分違うタイプの人間だと思っていたが、実は似たような嗜好の持ち主だったのかもしれない。たまたま所属した組織が違ったことで、まったく違う仕事に携わり、結果としてかなり違った人間に見えるようになったにすぎないのかもしれない。

父親がため込んだ荷物の中には、私の知らなかった若き日の父が閉じ込められていた。

 

 

 

 

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