<吉祥寺残日録>シニアのテレビ📺 連続テレビ小説「カムカムエブリバディ」に刺激され、人生で何度目かの英語熱 #220408

何の制約もない隠居生活に入ると、曜日の間隔がなくなってしまう。

それを辛うじてつなぎ止めてくれていたのが、最近ではNHK朝の連続テレビ小説「カムカムエブリバディ」だった。

ある意味でワンパターンとも言える朝ドラにあって、この作品は3人の女優をリレーで繋ぎ、大正から令和に至る100年を生きた母娘3代の物語を紡ぐという意欲作だった。

上白石萌音、深津絵里、川栄李奈。

この3人のキャスティングが発表された時、どうして2番目が深津絵里なのか不思議だったが、物語を見ていく間にそのキャスティングの妙に思わず唸ってしまった。

ちなみに、「上白石萌音mone」と「川栄李奈rina」の名前を続けて、「monerina」と表記すると、その繋ぎ目になんと深津絵里の「eri」が隠れているのだ。

そもそも、このドラマを楽しみに身始めたのは妻だった。

ドラマの舞台が昭和初期の岡山だったこともあるかもしれないが、和菓子屋で代々伝わるアンコを煮るおまじないと、ラジオの英語講座と、ルイ・アームストロングのジャズと、時代劇を縦糸にしながら、さまざまな登場人物が織りなすハイテンポのストーリー展開にいつの間にか私もハマってしまった。

最初の主人公・安子は気立のいい和菓子屋の娘。

ちょうどラジオ放送が始まった年に生まれ、交際する大学生に勧められて英語とジャズに出会う。

今でいうレトロな喫茶店も、当時は時代の最先端。

それでも家業を頑張れば安定した生活が送れる良い時代だった。

しかし、昭和に入り中国での戦争が泥沼化するに従い、そんな当たり前だった社会が変わっていく。

太平洋戦争が始まり、統制によってアンコを作る砂糖が手に入らなくなる。

英語もジャズも敵性文化として禁止されてしまう。

そして結婚したばかりの安子の夫は戦死し、大切な家族も岡山空襲で死んでしまうのだ。

このあたりまではいつもの朝ドラのパターンだが、戦後、安子が一人で娘を育てることを決意するあたりから物語は意外な方向へと進んでいく。

安子はラジオで英語を勉強しながら和菓子屋を再建しようと頑張るが、それが娘との間で誤解を生み、進駐軍の米兵と結婚して逃げるようにアメリカに旅立ってしまう。

このあたりのシナリオはやや強引で雑な感じがしたが、この時に放置された謎は怒涛のエンディングで全て説明される。

安子の娘の名はるい、2番目のヒロインだ。

戦死した父が、世界の国々と自由に行き来できるようにとの願いを込め、ルイ・アームストロングにちなんで名前をつけた。

母が去った後、父方の実家である岡山の裕福な家で育つが、成長すると単身大阪に出てクリーニング屋に住み込みで働き始める。

裕福だが気が詰まりそうな岡山の家から出て、るいは初めて人生の解放感を味わう。

そこで将来を嘱望されるジャズトランペッターの男性と恋に落ち結婚するが、るいの夫はプロデビューのため向かった東京で突然トランペットが吹けなくなり音楽の道が断たれてしまう。

絶望し自殺を図る夫を支えるため、るいが選んだ道は京都で回転焼きのお店を開くことだった。

子供の頃、母から教わったアンコのおまじないがるいを助け、貧しいながらも温かな家庭を二人は築いていく。

もうすぐ50歳になる深津絵里が10代の娘を演じるのはやはり最初はちょっと無理があると思ったが、どんどん時間が経過していくのですぐに違和感は消え去り、母に裏切られた不幸な少女が肝っ玉かあさんに変身していく女性の生き様を見事に演じてみせた。

そして、るいの娘ひなたが、3番目のヒロインだ。

戦前戦後の日本を生きた祖母や母に比べ、高度成長を遂げた日本でのびのび育ったひなたは、元気だが何をやっても続かない女の子。

同じ血が流れていても、時代背景が違うと人間の性格もずいぶん違ってくるらしい。

ひなたは幼い頃から時代劇が好きで、ひょんなことから斜陽の時代劇の世界に飛び込む。

この世界で大部屋役者として夢を追う男性とずっと付き合うが、結局この恋は実らない。

しかし、この時代劇が3世代のヒロインを引き合わせることになり、最後は怒涛のエンディングに向かって突き進む。

安子がハリウッドのキャスティングプロデューサーとして来日し、宣伝のために出演したラジオで自らの素性をカミングアウトするシーン。

これを偶然るいとひなたが聞くのだが、100年の物語の中でも最も重要なシーンは、なんとラジオから流れる安子の声とそれを聴くるいの表情だけで描かれるのだ。

るいも年齢を重ね、母へのわだかまりも消えて、自ら母を探しにアメリカにまで行っていたが、母は偽名を使ってハリウッドで活躍していたことを知る。

その時の、深津絵里の表情が素晴らしかった。

名場面の多かったこのドラマの中でも、私にとって忘れ難い最高のシーンは間違いなくこの場面だと思う。

英語を武器にハリウッドで成功した安子やひなたと違い、るいは回転焼き屋のおばさんとして一生を終えるのだが、甲斐性はないが優しい夫と共に生きた人生は安子やひなたよりも豊かだったように感じる。

人生にとって何が大事なのか、そんなメッセージを体現するために、あえてキーとなるるい役に深津絵里を選んだスタッフの狙いは見事成功した。

るいとひなたの名前の由来ともなり、安子夫婦とるい夫婦にとってとても大切な曲となったルイ・アームストロングの「On the Sunny Side of the Street」のメロディーがドラマの中でたびたび流れ、とても重要な場面で使われるので、知らず知らずのうちに私もこの曲を口ずさむようになってしまった。

またドラマの中で何度も繰り返される重要なセリフがあった。

安子の夫・稔の言葉。

「どこの国とも自由に行き来できる。どこの国の音楽でも自由に聴ける。僕らの子供にゃあ、そんな世界を生きてほしい。ひなたの道を歩いてほしい」

そして、ひなたを時代劇の世界に誘った古参の大部屋俳優・伴虚無蔵の言葉。

「日々鍛錬し、いつ来るともわからぬ機会に備えよ」

ダメダメだったひなたもいつの間にか、ラジオ英語講座で英語が得意になった物語を見ているうちに、私も自由に海外を行き来するために「日々鍛錬し、いく来るともわからぬ機会に備える」気分になってきた。

学生の頃から何度となく志しては挫折してきた英語の道。

外国旅行が大好きで、2回も特派員を経験したのに未だに語学が苦手な私だが、人生の最後にもう一度英語にトライしてみようかなと思い始めている。

まさに、ラジオ英語講座をテーマにした「カムカムエブリバディ」の狙い通りだ。

しかし私が教材として使い始めたのは、NHKのラジオ英会話ではなく、YouTubeである。

無料で聴けるネイティブスピーカーのレッスンがたくさん配信されているのを見つけたのだ。

どうせ時間だけはいくらでもある。

無駄なお金は使わず、日々こつこつと英語を聴き続けていれば、70歳ぐらいにはそれなりに英会話が上達するのではないかと考えているのだ。

「人生で思い残すことがあるか?」と聞かれたら、私は迷わず「若い頃にもっと本気で英語を勉強すればよかった」と答えるだろう。

老いて物忘れが激しくなった脳で、果たしてどこまで英語が上達するかはわからないが、これは私にとって最後にして最大のチャレンジである。

私の耳も脳も機能的に語学に向いていない。

それをどこまで克服できるのか、自分自身、心もとなくもあり楽しみでもある。

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