「林住期」再び

明日、36年勤めた会社を定年退職する。思ったよりも感慨がないものだ。

定年後もとりあえず現在の仕事を続けるからかもしれないが、それでも振り返ってみれば、よくこんなに長い間一つの会社で働いてきたものだ。

何度も辞めようと思ったことはあった。

会社が嫌になって辞めたいというよりも、もっと違うことにチャレンジしたいという気持ちが強かったのだ。

会社に入った最初のうちは、人並みに仕事を覚えるのに精一杯だった。しかし、慣れるに従いどんな仕事でもマンネリになる。同じことの繰り返しが退屈に感じるようになる。

私がやってきたテレビという仕事では、まったく同じ「製品」を作ることはまずない。同じ番組でも中身は常に変わるのだ。だから面白いのだが、それでも人間は慣れ、マンネリになる。贅沢なものだ。

しかし、そんな気持ちも忙しさに紛れ、50歳を過ぎる頃にはチャレンジ精神も少し変質してきたような気がする。会社を飛び出して勝負するには、少しエネルギーが不足してきたことを感じる。子供の学費などもかさみ、会社での責任も重くなる。子供や部下を見捨てて逃げるわけには行かなくなる。

そんな感じの会社人生が一気に気楽になったのは、子育てが終わったこの2−3年だ。

定年後どう生きるか?

そんなことを前向きに考えるようになった時に出会ったのが、五木寛之さんの「林住期」という本だった。定年の日を前に、もう一度「林住期」に目を通してみようと思い立ち、久しぶりにkindleアプリを開いてみた。

すると・・・

この本の中で、私が一番影響を受けた文章がたまたま目の前に現れたのだ。

これも天の啓示だろうと思った。よって、その部分をブログに転載させていただく。

 

『  「林住期」の真の意味は、「必要」からでなく、「興味」によって何事かをする、ということにある。

これまでずっと自分がたずさわってきた仕事を続けるにしても、そこから180度コースを変えて転進するにしても、今後は「必要」からではなく、はっきりと「興味」本位でそれをやる、ということだ。

仕事には報酬がともなう。金を稼ぐために働く人もいる。いや、大半はビジネスとして、生活の必要から職業をもつ。そうでない人もいるかもしれない。自分の夢として仕事に打ちこむ人だ。しかし、その場合でも、やはり金銭は切り離すことができない。

私は「林住期」にすることは、すべて「必要」からではなく、報酬とビジネスを無視してやるべきだと考えているのだ。

なにをやってもいい。とにもかくにも、それで金を稼ごうなどとは思わないことである。

以前と同じ仕事をずっと続けていくにしても、そのことさえはっきりさせれば、世界はがらりと変わってくる。要するに「林住期」においては、金のためになにかをしない、と決めるべきなのだ。

要するに道楽である。道楽で金を稼ぐべきではない、というのが私の意見だ。

「家住期」と「林住期」の違いは、やることの内容ではない。分野の相違でもない。金を稼ぐための仕事と、報酬を求めない仕事の差である。

だから私たちは準備をしなければならない、と思うのだ。

なんのための準備か、それは「林住期」を真に自由に生きるための準備である。「家住期」とは、むしろそのための準備期間であると考えたほうがいい。』

 

「林住期」が何かわからないと、意味不明だろう。

「林住期」とは何か? 五木寛之さんは本の冒頭、このように書いている。

『 古代インドでは、人生を4つの時期に分けて考えたという。「学生期」「家住期」そして「林住期」と「遊行期」。

「林住期」とは、社会人としての勤めを終えたあと、すべての人が迎える、最も輝かしい「第三の人生」のことである。』

そして五木氏は「林住期」を、50歳から75歳までの25年間と規定する。そしてこのように書いている。

『50歳をはっきりひとつの区切りとして受けとめる必要がある、と私は思う。そして、そこから始まる25年、すなわち「林住期」をこそ、真の人生のクライマックスと考えたいのだ。

50歳から75歳までの25年。その季節のためにこそ、それまでの50年があったのだと考えよう。考えるだけではない。その「林住期」を、自分の人生の黄金期として開花させることを若いうちから計画し、夢み、実現することが大事なのだ。

スポーツもそうだが、後半のゲームをどうつくるかにすべてはかかっている。』

 

林住期こそが人生のクライマックス。

そう考えるだけで、本当の自分に向き合える。

自分はどう生きたいのか?

なにを大切にしたいのか?

会社人生の中では、どうしても環境に自分を合わせてしまう。そこから離れて、自分がしたいことを自分に問うという行為そのものが新鮮であり、貴重なのだと感じる。

この本に出会ったおかげで、定年の日を心穏やかに迎えることができる。

「興味」というキーワードで価値を判断することによって、それまで頭の中でぐるぐる回っていた様々な気持ちがすっきりと整理できた気がする。

中年のすべての人に、五木寛之さんの「林住期」を読むことをオススメしたい。

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