<きちたび>1泊2日北海道胆振の旅④ 地獄谷から大湯沼へ登別温泉を歩く

登別とは、アイヌ語で「色の濃い川」という意味だそうだ。

その名前の由来を自分の目で確かめられる場所もあるので、登別温泉に着いたらぜひ遊歩道を散策したい。

私が宿泊した「第一滝本館」から歩いてすぐのところに、「地獄谷」の入口があった。

地図を見ると、広範囲にいくつもの探勝路が設定されているようだ。

北海道では、もう紅葉が始まっていた。

色づいた樹々の向こうから、濛々と蒸気が立ち昇るのが見える。

歩道脇の石垣にも「地熱注意」と書かれた板が設置されていて、熱を逃がすためであろうパイプが何本も顔をのぞかせていた。

火山列島・日本。

そんな言葉を実感しながら進んでいくと、目の前が開け、登別のシンボル「地獄谷」がその全貌を現した。

この場所が、「地獄谷展望台」である。

この展望台から先は「地獄谷遊歩道」、一周568mある。

地獄谷の荒々しい光景を右手に見ながら、のんびりと歩く。

しばらく行くと、下方に小さな祠が見えてくる。

登別温泉三大史跡「薬師如来」だ。

『文久元年(1861)、火薬の原料として地獄谷から硫黄を採掘していた南部藩の家臣が、お堂の下から湧いている温泉で目を洗ったところ、長年わずらっていた眼病が治ったことから、そのお礼に寄進した石碑が安置されており、今では目の湯の名前で親しまれています。』

案内板には、そう書いてあった。

今の岩手県にあたる南部藩は、幕府からの指示によりここで硫黄の採掘に携わっていた。

硫黄は火薬の原料となるため、古くから日本の重要な輸出資源でもあった。

薬師如来へ降りる坂道沿いには、ナナカマド。

白い噴煙をバックに、ナナカマドの実の赤さがとても印象的だった。

再び遊歩道に戻ると、突然左手の斜面から、ガサガサと音がした。

鹿だ!

野生の鹿が樹々の間から突然飛び出してきたのだ。

わたしは慌ててカメラを向けたが、鹿は人間に慣れているようで、遊歩道の近くに悠然とたたずみ、時折こちらに顔を向けた。

奈良の鹿じゃないんだから、もう少し野生らしく警戒心を持ってほしいと、妙な不満を感じたりもする。

それでもこの興奮を誰かに伝えたくて、後ろから来たカップルに「あそこに鹿がいるよ」と教えると、ふたりはとても喜んでくれた。

しかしあたりをよく見ると、地獄谷の中にも二頭の鹿がいることに気づく。

こんな場所にも、鹿たちの餌になる何かがあるのだろうか?

その名の通り地獄のような谷は、鹿たちを育て、私たち人間にも登別温泉の豊富なお湯を供給し続けている。

何か不思議な感じもするが、これがまさに自然の恵みというものなのだろう。

そして、遊歩道はいよいよ地獄谷の内部に入っていく。

注意書きには、こう書いてあった。

『この木道は地獄谷の火山活動地帯に設置しており、危険な場所がありますので下記の事項を守って下さい。防護柵の外はいたる所に湯つぼ、噴気口が点在しており、地面が陥没しやけどしますので、絶対防護柵の外に出ないで下さい。噴出している湯、又は蒸気は高温でやけどしますので絶対手や足で触れないで下さい。』

やっぱり、こんな火傷しそうな場所に入っちゃう人がいるのだろうか?

地獄谷に湧く温泉の温度は80度あり、間歇泉になっているという。

立ち昇る蒸気が背景の紅葉に引き立てる。

硫黄をたっぷり含んだお湯も流れている。

黄色く沈殿した硫黄を古代の人たちはどんな思いで見たのだろうか?

紅葉の地獄谷、観光客の姿はかなり戻ってきたようだが、普通の年だったら、もっと混雑していたと思えば、今は狙い目なのかもしれない。

地獄谷の中心から遊歩道に戻ると・・・

「三途の川 のぼりべつ地獄谷」と書かれた標識がポツンと立っていた。

ここから先、地獄谷遊歩道を離れて山に入る。

「大湯沼遊歩道」と名前も変わり、どんどん登り坂になっていく。

道は林の中を抜けていくため、色づいた樹々を間近に感じることができる。

すれ違う人もほとんどいなかった。

600mほどの大湯沼遊歩道を歩くと、目の前に火口湖のような大きな沼が現れた。

これが「大湯沼」である。

周囲1キロ。

深いところでは22mあり、これほど大きな「湯の沼」は世界的にも例がないという。

坂を下ると、沼のほとりに達する。

濛々たる蒸気が山を隠すほどだ。

写真で見るといかにも秘境の趣があるが、実はこの沼のほとりには駐車場が整備されていて、車で来る観光客の方が多い。

それでも、地獄谷に比べれば人の数もずっと少なく、ゆっくりと周囲の紅葉を楽しむことができた。

このあたりの森は「登別原生林」と呼ばれ、国の天然記念物にも指定されている。

『天然記念物登別原生林は、北海道中帯南部の植物区系を代表する学術上貴重な天然林であることから、その保存を目的に185.86ヘクタールが指定されています。当地は、温泉地帯であり、また海に近いことから暖地性の植物が豊富で、ミズナラなどの樹木60種、草木類約110種の計170種が知られていますが、第2次世界大戦中の伐採や風害により、現在その種類は少なくなっています。』

山の管理は難しい。

乱開発もダメだが、人が山に入らなくなるとこれまた山が荒れていく。

そんな大湯沼から流れ出ているのがこちら、「大湯沼川」。

どす黒い川の水、いや流れているのはお湯だ。

アイヌの人たちがこの地を「色の濃い川」と呼んだ意味がよくわかる。

黒い川は、遊歩道の下を抜け・・・

小さな滝を作りながら、少しずつ温度を下げていく。

そして・・・

この辺りまで流れ下るうちに、ちょうどいい湯加減になっている。

そう、ここは足湯。

登別の自然が作った「大湯沼川天然足湯」である。

私も川の中に足を浸してみた。

本当にちょうど気持ちの良い温度だ。

川底には砂があり、足裏の感触も心地よい。

私が訪れたのが夕暮れ時だったせいか、天然足湯には私一人だけ。

誰にも邪魔されることなく、天然の川湯を満喫した。

コロナ前には外国人にも大人気だったそうなので、ある意味貴重な体験だったかもしれない。

足湯のすぐ下流では、大湯沼川がもう一本の小川と合流している。

もう一本の川の水は濁っていない。

黒い水と透明な水が合流し、温泉街の方へと流れ下っていく。

そして川に沿うように、大湯沼のお湯を運ぶための金属製のパイプも温泉街へとつながっているのだ。

豊かな自然に恵まれている登別温泉。

無理して安っぽい鬼や閻魔様の像を作るのではなく、この素晴らしい自然をもっとストレートに楽しめる、センスの良いリゾート地を目指して欲しいと思った。

世界に誇るべき火山列島・日本の財産である。

<きちたび>1泊2日北海道胆振の旅

①室蘭カレーラーメンを食べに「味の大王 室蘭本店」へ

②「鉄の町」室蘭の絶景スポットを巡る

③登別温泉の老舗旅館「第一滝本館」に泊まる

④地獄谷から大湯沼へ登別温泉を歩く

⑤新千歳空港「ラーメン道場」で味わう「えびそば一幻」

⑥白老町に完成した国立施設「ウポポイ」でアイヌの歴史に触れる

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