<きちたび>小国の気持ち チェコの田舎町で、カレル・チャペックの生き様に触れる

それは本当に田舎のなんの変哲もない村だった。道に迷い、たまたま見つけた住民に話を聞いて、ようやく村はずれの駐車場にたどり着いた。

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天気がどんよりしていたせいもあるが、湖に面したその土地はちょっと物寂しい印象だった。

ここにチェコの国民的作家カレル・チャペックが晩年を過ごした館があるという。そっけないチェコ語の案内板が、間違いなくここが私たちが目指した場所であることを示していた。

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カレル・チャペック。

私は彼のことをまったく知らなかった。たまたま図書館でチェコ関連の本を借りて帰った時、妻がその中にカレル・チャペックの記念館の写真を見つけ、「ここに行きたい」と言った。

作品の中で「ロボット」という言葉を生み出したカレル・チャペックは晩年、プラハ郊外のスタラー・フチという小さな村で暮らした。彼は「園芸家12ヶ月」という本を書くほど庭の手入れに精を出した。

妻はジャーナリストや劇作家としてのチャペックではなく、園芸家としてのチャペックに興味を持っていたようで、チェコに行くなら記念館になっているスタラー・フチの館を訪ね、その庭を見てみたいと思っていたようだ。

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駐車場から館まで500メートルほど林の中を歩かなければならない。人気の観光地ではないらしく、私たち以外にこの道を歩く人はいない。

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入り口の看板。英語の案内すらない。商売っ気がまったくない。

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森の中に写真で見た可愛らしい家が見えて来た。敷地はかなり広いようだ。

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想像していた美しい庭ではなかった。

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天気のせいもあるが、暗い。

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カレルが生きていた頃は、もう少し手入れがされていたのだろうか?

中に入る。入場料は1人40コルナ(約200円)。

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カレル・チャペックと兄ヨゼフ・チャペックの像が置かれていた。

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カレルとヨゼフは同じ新聞社に勤め、共に活動を続けた。

ヨゼフの絵はとてもユーモラスで素敵なイラストが多い。

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そのヨゼフが描いたと思われるこのイラスト。胸に「RUR」の文字が刻まれている。

この「R.U.R.」という戯曲こそ、「ロボット」という言葉を生んだ作品なのだ。

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私はチャペック作品を読んだことがないが、その内容について紹介してくれているブログを見つけた。他の作品の内容も紹介されているので、ご興味があればこちらを。

「ペンでファシズムと戦った天才作家 カレル・チャペック」

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ロボットや原子力といった彼が生きた時代から見れば「未来」を描き、我々が驚嘆するほど100年後の現代を予見している。

これを機に、ぜひ私もカレル・チャペックの作品を読んでみたいと思う。

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記念館では彼が暮らした頃の家の様子も見ることができる。

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そして彼は新聞社に所属するジャーナリストとして第一次大戦後のヨーロッパ各地を取材した。

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ヴェルサイユ条約で、莫大な賠償金を支払わされるドイツではナチスが台頭していた。

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そんな危うい社会情勢の中で、彼が発表したのが最高傑作とされる「山椒魚戦争」だった。

この作品でカレルは、ヒトラーを暗に批判。さらにはナチスに迎合する大衆の広がりに強い危機感を表したのだ。

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この本は絶対に読まなければならないと思っている。

この素敵なイラストを描いた兄ヨゼフは、チェコを占領したナチスによって強制収容所に送られそこで死んだ。カレルは、その前に病を患い、祖国の悲劇を見る前に亡くなった。

「100年前」を調べる活動を始める一環として、チャペック兄弟についてはもっともっと知りたいと思う。

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しかし、カレル・チャペックの魅力は、人生を楽しむ精神にある。人間は戦いのためだけに生きるのではない。笑いを愛し、自然を愛し、園芸を楽しむ。そんな普通の人の営みを続けながら、巨大な悪に異を唱えたのだ。

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その姿には、大国に囲まれいつ侵略されるかわからない“小国”の人たちの生き様が現れているように感じる。

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チェコを訪れたのを機会に、小国の意地と知恵をもっと学びたいと思うようになった。

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ボヘミアの田舎で、もう一つの街に立ち寄った。

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その街はターボルという。旧市街のあちこちに可愛い家が並ぶ。

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旧市街の中心にあるのが「ジシカ広場」。石畳の広い広場を装飾性豊かな建物が取り囲む。

この街は、教会を批判して処刑されたヤン・フスを支持する貴族たちがカトリック教会と戦った「フス戦争」で、フス派の拠点となった街だ。

街の下には地下道が張り巡らされているのだという。

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広場でひときわ目につくのが「キリストの変容教会」。1677年に建設された。

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その前に立つのが隻眼の英雄ヤン・ジシカの像だ。ジシカはカトリック教会が送った十字軍を破理、多くの戦いで勝利した。

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教会の隣にあるレストラン「ベセダ」で簡単な昼食をとる。

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頼んだのは、スープとパンだけ。これで十分だ。

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これがなかなか美味い。2人で74コルナ(350円)。やはり地方都市は安い。

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ターボルの街は最初から戦いのために作られた。そのため、細い道が迷路のように張り巡らされている。

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中世ヨーロッパの絶対権力だったカトリック教会に戦いを挑んだチェコの民衆。そうした精神がどこから生まれるのか?

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まだまだ私はチェコのことを知らない。島国に暮らす日本人には、大国に囲まれた小国に生きる国民の気持ちは理解できないかもしれない。

でもこの国を知れば知るほど、「小国の気持ち」に興味が湧いてくる。小国には、人が生きる意味を考えるヒントが見つかる気がしている。

 

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<参考情報>

私がよく利用する予約サイトのリンクを貼っておきます。



 

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